秘剣『獅子王』乱舞 本の概要・紹介文

旗本500石小姓米良武大夫は、「日本一有名な浪人」細井広沢より、号『獅子王』なる一振りの大太刀を預かる。
『獅子王』という名前の太刀は、平安時代に都を悩ました「鵺」という顔は猿・胴体は狸・手足は虎・尾は蛇という妖怪を退治した功により源三位頼政公に与えられた宝剣である。
ところが、米良武大夫が預かった『獅子王』以外にも同じ名前の太刀が、大名の土岐家にも伝わっている。
細井広沢は、元々は側用人柳沢吉保の家臣であったが、知人から仕官を頼まれて高崎藩主で側用人松平右京大夫の家老を紹介したところ、家老から知人が所有する名剣『獅子王』を右京大夫に献上すれば仕官が叶うと言われて『獅子王』を献上したが、3年経っても何の音沙汰もない。そこで、広沢が右京大夫に談判に行くと「そんなことは知らぬ。仕官を約束した家老はすでに死んだ。そんな話 なら剣は返す」と言った。細井は怒った。大名である右京大夫に向かって、 屋敷中に響きわたる大音声で、「右京大夫殿!ならずのことをなされ候」と、 一喝して去った。他藩の一家臣が、大名を面罵したのだから当然そのままでは治らない。
広沢は柳沢家を辞して浪人する。
右京大夫が仕官の約束を反故にしていたのは、この『獅子王』が偽物だと思ったからだ。
ところが、米良武大夫の祖父武左衛門が刀身を検めたところ、この太刀こそが本当の『獅子王』であることが判明した。
『獅子王』が本物であることを、米良家を探っていた忍びの者から聞いた松平右京大夫は、一度は自分の手元にあったその太刀を取り戻したくなって、浪人や黒鍬者を使い、二度にわたり米良武大夫の屋敷を襲撃するが、武大夫の祖父武左衛門、弟耐造や義兄の南町奉行所与力中村結城丞それに供侍軍蔵などの剣豪の活躍でいずれも失敗に終わる。
米良家の女性は、耐造の母ナツが天道流の薙刀、武大夫の妻八重は天心流小太刀の免許皆伝で
賊の襲撃時には男性軍に劣らぬ働きをする。
旗本小姓米良武大夫が、狼藉者の襲撃を見事に防いだという話が将軍綱吉の耳に入り、綱吉の「武士の鑑である」の一言で500石を加増され、柳沢吉保より小姓組与頭に任じられる。
これを機に、吉保も『獅子王』に興味を抱き、甲州素破の「くノ一」朧の千代を探索のために、米良家の供侍軍蔵に近づける。
千代は軍蔵を恋い慕うようになり、松平右京大夫が『獅子王』奪還のために米良家を3度目の襲撃をした際の乱闘の中、傷ついた軍蔵を助けようとして軍蔵とともに死ぬ。
耐造は、行儀見習いのユキと結婚して、ユキの父阿波屋徳兵衛に旗本の株を買ってもらい旗本になる。
細井広沢は、この『獅子王』は所有者と余りにも多くの人の命を奪う妖剣ではないかと考えて、大隅国の「宮浦神社」に奉納する。
土岐家に伝わるもう一振りの『獅子王』は今に伝わり、重要文化財として東京国立博物館に所蔵されている。

書籍冒頭のご紹介

(プロローグ)


 歴史には、いろいろなミステリーがある。

 現在、東京国立博物館に所蔵されている国の重要文化財の号『獅子王』という名剣もそのミステリーの一つであり、その怪しく光る刃長二尺五寸五分(約七十七・三センチ)に謎を秘めている。

 歴史上、『獅子王』なる太刀は、二条天皇の御代に、天皇を恐怖で病にして、さらに都を騒がせたサルの顔・タヌキの胴体・トラの手足・ヘビの尾を持つという『鵺(ぬえ)』という妖怪を仕留めた恩賞として、『源三位(げんざんみ)頼政公』に下賜されたと『平家物語』『源平盛衰記』などに記されている。

 しかし、このとき下賜された太刀は三尺五分五寸(一○二・五センチ)の大太刀と伝えられている。

 

 東京国立博物館の『獅子王』は明治維新(明治十五年)になって、頼政公の子孫の土岐頼近氏から明治天皇に献上され、日本国憲法による新体制が発足した後に、皇室財産は国の財産として、皇室に所属していた他の刀剣とともに東京国立博物館に移管・所蔵されたものである。

 また、この『獅子王』は、あの桃山時代の刀剣鑑定家の本阿弥光徳や光瑳もそれを拝見したと本阿弥光甫に語ったと伝えられ、平安時代末期の大和の刀工豊後貞秀または備前実成の作と見られる。

 したがって、いい加減の刀剣ではない。

 

 それでは、どうして三尺五分五寸の大太刀が、二尺五寸五分の小振りな太刀に変身してしまったのだろうか?

 その歴史上のミステリーを追ったのが、この小説である。

(登場人物)

米良耐造  :本編の主人公。旗本の部屋住み次男坊。「直心影流免許皆伝」の剣豪。

米良武大夫 :耐造の兄。本名は武晴。知行七百石旗本米良家の家長。徳川綱吉の小姓で儒学の俊英。側用人の柳沢吉保の知遇を得る。武芸は全く嗜まず。

米良八重  :武大夫の妻。「天心流小太刀免許皆伝」。「姉崎流含み針術」の達人。

米良武左衛門:武大夫と耐造の祖父。武晴と耐造の父武兵衛が早死にしたが、孫の武大夫に早々と家督を譲る。高齢ながら同田貫の大業物「肥後州同田抜」を自在に操る「直心影流免許皆伝」の剣の達人。細井広沢の親友。

米良ナツ  :武大夫と耐造の母。「天道流の短刀と薙刀」の名手。

森友ユキ  :日本橋の大店「阿波屋」の娘。米良家の行儀見習い。耐造の恋人。

結城ハル  :武大夫と耐造の姉。旗本の夫と死別して、知行二百石の南町奉行所与力中村結城丞と再婚する。

中村結城丞 :最初の妻とは死別してハルと再婚。「直心影流免許皆伝」。南北町奉行所与力・同心の中で敵う者なき剣豪。

星野軍蔵  :米良家の供侍。剣術と少林拳の達人。耐造を助けて活躍。

細井広沢  :江戸時代中期の儒学者・書家・篆刻家。
書、剣、槍、弓馬、柔術、鉄砲、天文測量、兵学、歌道、天文、算術の文武両道通じる。江戸の元禄時代【天下一名高い浪人】と呼ばれた。剣術を直心影流の堀内道場に学び、同道場の師範代堀部安兵衛と親交があり、赤穂事件でも安兵衛を通じて赤穂浪士に協力し、討ち入り口述書の添削を行う。
側用人松平輝貞と『獅子王』を巡って揉め事を起こし、主家柳沢家を放逐されたのがこの物語の発端となる。

朧の千代  :甲州素破の「くノ一」。軍蔵に恋をする。

柳沢吉保  :将軍綱吉の寵臣で、大老格の側用人。

第一章 同田貫と菊池千本槍と獅子王


     一

「キエー」「イヤー」

 叫びとも思われる裂帛の気合いがして、耐造は目を覚ましたが、何分にも真冬の一月の明け六つ(朝六時)頃のことだ。庭に面する腰高障子は未だ薄暗い上に、薄っぺらいがそれでも暖かな布団からはなかなか抜け出せない。

 麻の裃の兄武太夫につき従って、上司屋敷への忙しい年賀の挨拶回りもやっと終わったばかりだ。

 年賀の挨拶といったところで、玄関先で「失礼」「ごめんくだされ」と言うだけだが、それでも結構気を使うし疲れる。

 できればもう少し寝ていたいところだ。

 それに、やっと捨て鐘(注1)が三つ打たれたばかりだ。

 祖父の米良(めら)武左衛門は六十歳を過ぎたばかりというのに、早々と隠居願いを出して家督を孫の耐造の兄武大夫に譲ったが、まだまだ元気旺盛、直心影流剣術の免許皆伝とあって、自慢の無銘ながら大業物「九州肥後州同田貫」を毎朝振り回す。

 一方、耐造の母ナツが家伝の薙刀「鶴姫」を持って、勇ましい掛け声をかければ、行儀見習の日本橋の大店「阿波屋」の娘ユキが負けじとばかりに、これに応じるのだから、嫌でも目が覚めてしまう。

 ナツは鹿島新當流の流れを受ける「天道流」の薙刀と短刀の免許皆伝という女傑だ。

 ユキもナツの薫陶によって、今では切紙の腕だ。

 庭には、一昨日降った雪が溶けずにかなり積もっている筈なのに、若いユキはともかく祖父も母も元気なものだ。

 台所では、兄嫁の八重が女中頭のウメや下女のタケたちに命じて、忙しく朝餉の支度をする物音がしてくる。

 この八重も天心流小太刀の免許皆伝で、さらに「姉崎流含み針術」の名手という女傑だ。

 旗本五百石の米良家の千坪という大きな屋敷ながら、耐造は次男坊で厄介者の部屋住みの身なれば、この部屋は塀に沿った女中部屋に近い北向きの六畳間なので‥‥、

「しじみィー、えー、しじみよォー」

 子供のしじみ売りの声が、すぐ耳元で聞こえる。

 

 突然、「ごめん」という声とともに襖が開いたかと思うと、甥の武揚が部屋に入ってきて‥‥、

「叔父上、朝です。もうご飯ですよ。起きてください。それに、今日は上野の忍岡聖堂に連れて行っていただけるお約束でした!」

 と、枕元で大声を上げる。

・・・

著者紹介
山本肇

1936年生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。
三菱重工業㈱を経て独立。中国、香港、台湾、韓国、米国などで事業を展開する。病を得て引退後17年間オーストラリアで暮らし2014年に帰国する。

ビジネス書に「日本経済をチャイルド・ショックが襲う」「少子亡国論」などの他、近著に「新少子亡国論」「九尾の狐と楊貴妃と吉備真備の称徳天皇暗殺秘録」「尖閣諸島沖大会戦」「小説『徐福の千夜一夜物語』」他がある。

「アンディ 大和」の筆名で、小説「南十字星の夢」「ゴールド・コースト連続殺人事件」他。

目次

(プロローグ)

(登場人物)

第一章 同田貫と菊池千本槍と獅子王

第二章 襲撃

第三章 秘剣『獅子王』の秘密

第四章 広沢に『獅子王』の秘密を明かす

第五章 再度の襲撃

第六章 昇進

第七章 最後の襲撃

第八章 大団円

(エピローグ)

(注釈)

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