AI音声解説
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この物語は、様々なハンディキャップを持たされ生まれてきたものたちの泣き笑いの一生を描いたものです。
はるか昔、まだ人類が言葉を始めとした感情表現の手段を持たず、ただ野獣のエサでしかなかった時代。その中に入り込んだ宇宙生物「ゼリー」は、色を変えることによってその者の感情を表現し、進化の一役を担っていました。このゼリーも生物ですから進化して、やがてその人の記憶を溜め込むストッカーのようなものとなり、さらに感情を色濃く表現するようになっていきます。
これに遅れてやってきた宇宙生物がいました。好奇心の塊のような生物で「アニモロ」といい、エサは人の寂しさです。生き物はまだオスとメスに分かれておらず、集団化することも知らなかった時代、青く輝く星は寂しさに溢れ返っていたからです。
やがて生物はオスとメスに分かれ、これにつれて寂しさが薄らいでいきます。
するとアニモロはその旺盛な食欲に減り続けるエサに代わる新しいエサを見つけます。これが「絶頂感」だったのです。一見寂しさとは対極にあるように思われますが、実のところこれは寂しさが凝縮されたものであり、絶頂感はその最大限の放出であることに気付いたのです。
孤独な人の持つ寂しさを求めてやってきたアニモロでしたが、この新しいエサを見つけたことで、人々が寄り添い、求め合うように操っていきます。
かくして人々はアニモロに操られるがままに憎しみあい、集団で殺し合いをする中で絶頂感を高めていきます。また、そこにたどり着く過程でとんでもない量の欲とストレスを溜め込むのですが、これがアニモロにとってはまた美味だったのです。
そんな人間たちはアニモロの求めるままに記憶のストッカーであるゼリーを嫌がり、追い出してしまいます。欲にとりつかれた者たちにとって、大人になる過程で残した幼い頃の純粋で素朴な記憶は邪魔だったのです。
そして追い出されたゼリーたちは宇宙を放浪していたのですが、やがて集まり「チビたちの星」を創り、住み着きます。宇宙生物ゼリーは人の体を離れれば無色透明に近い存在です。ですからそれが誰のゼリーか判別するために、記憶をもとにその中に作り出した小さな存在が「童謡のチビ」です。チビたちの星とはこれが集団で暮らす星です。
物語は、アシュリンが選別の国で巨大なスクリーンをのぞいているシーンから始まります。
映っているのはリンが見ていたときとは違い、人類の進化の歴史です。スクリーンの前には蛍光灯が一つ置かれた細長い机が一つ。この机は、これもまた歴史に名を残した偉人であるトーマスと二人で使っているのですが、そのプライドから決して相手に疑問を投げるようなことはしない関係です。
しかしメンバーたちがいない今、几帳面なトーマスの帳面が開いて微妙な動きをしながらアシュリンを誘い込み、誘惑に負けたアシュリンはついつい帳面を読み始めてしまいます。
まるでアシュリンの読むスピードに合わせたかのように動いていくスクリーン。そして読めば読むほど、本当にトーマスが書いたものなのか、と疑問を深めたくなる記述……。
昔の者は相手を選ぶことを知りません。
進化途中に突然変異によって生まれた、ゴキブリと人間とのハーフであるかのような兄弟三匹。この兄弟の中にあって双子であるオスの二匹、オルデミスとウーノスは、内一匹のメスである妹のライアをめぐって争いが絶えませんでした。
三匹は、偶然この星の上を通り掛かったときに見かけたアニモロに興味を持った二人、創造主の遣いであるアデリーナとアレッシオに可愛がられるうちに、命まで永遠化していきます。
やがて三匹は、ライアが生んだ二体の「人間」のあまりの食欲の旺盛さと巨大さに宇宙に逃げだし、そこで遭遇した魂の塊を漂ってきたハンマーで叩いたことでできた二つの星、「光り輝く世界」と「選別の国」の主として、確執を引きずったまま君臨します。
この二つの星はオルデミスの思うままに、そのうちやって来る子孫たちの「後の世」として、それぞれの役を持って位置付けされます。
弟のウーノスはライアを手に入れたことで自信を持ち、オルデミスを乗り越えることを目標としていましたが、兄のオルデミスは自らの正義感のもとに、「真の創造主」に代わる存在となることを夢見ていました。
生まれた二人は旺盛な性欲のもとにたくさんの子孫たちを作りました。子孫たちは、アニモロに操られるがままに殺戮の歴史を繰り返していきます。三匹は青く輝く星のその後を心配して、悲惨な現状を変えようとそれなりの努力をします。
そんな三匹のもと、出生の秘密を持ってそれぞれの星に生まれたリンテミウスとアントローダは、「離れてしまった人の心と言葉を一つにしろ」という同じ天命を授かって、リンテミウスは古代社会に、アントローダは現代社会に落とされるのですが、誘惑の塊のような現代社会に落とされたアントローダは、持って生まれたものを嫌われるうちに失意に沈み、働かなくなってしまいます。その後、たぶん父親と信じるウーノスの策略によって、天罰という名のもとに古代社会に落とされ、そこでリンテミウスと出会います。
片や古代社会に落とされたリンでしたが、オルデミスの予想したところとは違った扱いをされるうちに、すっかり生きることに疲れてしまっていました。そしてそこに現れたアンと恋に落ち、二人で「後の世」に旅立つことを勝手に決めてしまいます。やがて先に旅立ったリンに誘われるがままにリンのもとに旅立ったアン。
二人はアンの故郷である選別の国に戻ってきました。
リンにしては初めての選別の国。その物珍しさにうろついていたときに宇宙の船頭ソウタロウと出会い、舟に乗り込んで「チビたちの星」に向かうのですが、そこで先客であるアシュリンと出会います。そして行った先のチビたちの星で出会った「童謡のチビ」。
このアシュリンは、友達のトーマスと共に光り輝く世界の主からある天命を授かって宇宙の旅へと出させられたのですが、リンはそれを知りません。
リンとアシュリンは、その時ソウタロウからとんでもないことを聞いてしまいます。チビたちの星がブラックホールに飲み込まれそうになっているというのです。あの星が消えてしまえば、表裏一体の関係にある青く輝く星で暮らす人間たちもやがて……。
もう一つその意味が分かっていないようなリンと違い、生前、天才物理学者として名を馳せたアシュリンは、友達のトーマスを呼んで対策を考えます。
アシュリンより選別の国に長く住んでいるリンは、誰が置いたかも分からない巨大なスクリーンを通じて、青く輝く星から助けを求める子孫たちに様々なアドバイスを送っていました。
当たり前のようにそんなことをしてきたリンですが、やがてその星に住み着いたアシュリンは、当たり前のように「誰が、何のためにこんなものを置いたのか?」と考え始めます。
アシュリンはそこで自分の立ち位置というものを悟ります。
これこそが自分に授けられた「本当の天命」と悟ったアシュリンは、未知の力を感じるリンとの出会いに神秘なものを感じ、リンの心を動かし利用して、助けを求める子孫たちがいる現代社会に行くことをひそかに画策、親友のトーマスとともに実行していきます。
死んだらてっきり生前の望みが叶う、夢に見る天国に行けると信じていたリンでしたが、そこで知らされた哀れな子孫たちの現状と迫りくる人類滅亡の危機に、「私が変えてやる」と意気込み、天命を実行すべく、メンバーたちとともに現代社会に行くことを決意します。それは同時に、あのとき自分に天命を授けた父親との再会を夢見るものでもありました。
そしてやってきた雲の上の、誰が建てたかも分からない豪邸に住み始めたメンバーたち。しかし、同じ雲の端には得体の知れないうごめく巨大な影が二つ。
すでにアシュリンは「人類を救うためにはリンちゃんの力を借りなければならない」、ということについてトーマスと合意しています。
迫り来る人類滅亡の危機。さて……。
舞台は「浦吉(よし)」という、陸から海に突き出た前方後円墳のような特殊な形をした所です。その先端にある丸い山には、古くから闇の遣いが住み着いているということを全ての者が知っているのですが、決して口にすることはありません。
そんな浦吉で、様々なハンディキャップを持ったキャラクターたちが繰り広げる人間模様。そしてそこで見、体験していく、可愛い子孫たちが暮らす現代社会の醜さ。
進化がもたらしたものとは何なのでしょう? リンは何を感じ、どのような決断をするのでしょう?
このドラマにおいて『』で語るキャラクターはこの世の者ではありません。そのようなものがこの世の者と全く対等にしゃべるのも、この物語の特徴とご理解ください。
笑いの中に喜怒哀楽をちりばめました。
超長編で10部を予定しておりますが、今回はその第一弾です。
舞台は過去と現代、宇宙と青く輝く星、あるいは地上と雲の上、さらにはこの世とあの世といったように、目まぐるしく交差しながら展開していきます。
どうぞお楽しみください。
第一章 アニモロ
第一話 草むらのジョージとカレン
生きていくためには他のものの命を食べなければならない。これが命あるものの宿命である。
『――ああ、そうなのかい。へぇぇ……』
今日も当たり前のように空腹を満たすための戦いが行われていた古代社会であったが、ただ生きるだけでは物足りなくなった集団の一人がそれに終止符を打つべく、ライバルと目される男の姿を求めてさまよっていた。
『――変わった男だよ。ウロウロしてたら獣に食べられちまうじゃないかよぅぅ』
それにしても、どうしてこんな残酷なことが当たり前のように通ってしまうのか? 現に、さも家畜であるがごとく、人間同士でも命を奪い合うのが自然の流れであるかのように、今日も世界各地で戦争が起こっている。
『――世界? 戦争? なんのことだよ? 私には分からないね。へぇぇ……』
人生に偶然は存在しない。とすれば、どこかの誰かが仕組んだことだとしか思えないのだが、さて……?
『――どこかの誰か? それってもしかしたら、私のお父さんのことを言ってるんじゃないのかい? ふふっ、私のお父さんはすごいんだ。できないことは何もないんだ。ふふっ……』
「うるさい、おまえは! 人が真剣にしゃべっているのに、いい加減にしろ!」
『アン、見てごらんよ。あいつ、怒ってるじゃないかよぅぅ』
『本当だ。怒っているではないか、リン。カカッ! モゥォォ~!』
『あっ! あんた、顎あごが外れてるじゃないか。まだ始まってないんだ。バカみたいに笑うもんじゃないんだ。ケケッ! メェェェ~!』
疲れた体で立ち止まり、行く手を阻はばむ丸太んぼうを力の限り坂の下に蹴り落とす。すると、弾みながらホコリを立てて遥か向こうまで転がり落ち、行き着いた小川が雄たけびのような水しぶきを上げる。
そうでもしなければ、このイライラは治まらない。
「ウォォォォォォォォ――!」
息を荒げて振り返ったクエは、また荒れた草原を猛然と走り出した。
ええーい! いくら広いとはいえ、これだけ捜していないということは?
焦りもしたが、もはや不思議としか思えない。
村を出た? いや、それは絶対にない。本当は臆病者のあいつに、そんなことができるはずがない。あいつは必ずどこかに潜んでおびえているはずだ。今こそ仕留めてあいつの首を持ち帰り、俺が一番であるということを証明してやる!
小雨混じりのその日も、村一番の勇者クエは、アンの姿を求めて村中をさまよっていた。
そんなとき、村の外れで子供たちが小さな沼をのぞき込んで騒いでいるところに出くわす。
どうしてあんな所に? なんだ、あの者たちの着ている物は? 一体あそこはどこなのだ?
しかも、その不思議な場所の中心で、噂通りに角つのを生はやしたアンが、刀のような物を持って身構えている。
おのれ、アン! 会えて嬉しいぞ! おまえはこれまでだ!
勝機を悟ったクエは、池の中心のアンに狙いを定めて、一本の弓矢を放った。
その日も穏やかな晴天が続いていた。
といっても、全ての生物にオスもメスもない、遡さかのぼること遥か昔のことである。
勝ち残るということは、つまり子孫を残すということであり、捕食者と被食者とのドラマは、まるで無意識に息をするがごとく、なんの禍根かこんも残さず繰り広げられていた。
それもそのはずで、生物が誕生した時代には、お粗末な視覚よりも、嗅覚や聴覚に頼って獲物を捕るのが当たり前であったために、的確な記憶は残りようがなかったからだ。
しかし、進化の名のもとに時間をかけて、状況は徐々に変わっていった。
――同じ光景を見るのは今日だけでも何度目だろう?
カレンは不思議に思っていた。またジョージがジュディーのいない隙に、思い切り曲げたしっぽの端っこをのぞき込んでいるからだ。そこから表情はうかがえないが、その哀れとも言える姿からして、ただごとではないということだけは伝わってくる。
カレンとジョージは「自分たちは他のものとは違う」、ということに気付いていた。
周りを見れば、相変わらず休むことを知らないものたちが、餌を求めて動き回っている。そもそも、そのものたちには「心」というものがないのだから、伝わってくるものもない。
そういう意味では二人からすれば、木や草と変わらない存在である。そんなことに気が付いたのはもうずっと前のことであるが、ジュディーの手前、なかなか言い出せなかったのだ。
などと格好をつけてみたところで、そんな二人も餌を捕らなければ生きてはいけない。他のもののことなど構っている場合ではないのだ。
しかもそんなときは、絶えずお互いの位置を確認し合うのが、今では当たり前のようになっているのだが、いつもと何も変わらないように見えるジュディーには、そんなことは分からないみたいで、目の前でうごめく小さな餌を捕ることに懸命になっている。
四枚の羽をばたつかせる音とともに、お決まりのようにジョージが飛んできて、カレンの横にとまった。そして、またすっかり見慣れた顔いっぱいの二つの目で自分を見つめるのだが、ジョージの場合はどこを見ているのかよく分からない。カレンにすればそこが魅力的なのであるが……。
「なあ、カレン……」
辺りは薄暗くなってきている。もうすぐ野獣たちが動き出す頃だ。早めに食事を終えたジョージとカレンは、小川に臨む土手に座っていた。「寂しくはないか?」
それは聞いたこともない言葉であった。だから、
「寂しい? それってどういう意味なの?」
と、カレンはジョージに聞き返した。
「な、なんだ、そのしゃべり方? おまえ、なんか変だぞ?」
「あら、そうかしら? 別に……」
当のカレンは、恥ずかしそうに下を向いてモジモジしているのだが、
「周りを見てみろ。みんな餌を捕ることだけに一生懸命になって、後は寝るだけだ。そうやってそのうち卵を産んで死んでいく。たったそれだけのために生まれてきているんだ。そんなのって嫌じゃないか?」
ジョージが何を言いたいのかは伝わってきているのだが、何かしら、それを先に言ってしまうと負けてしまいそうな気がして……。
「そう言われてみればそうね。でも、だからといってどうしろって言うの?」
「俺がいつもおまえを見てるっていうこと、分かっているな?」
「――ええ、もちろんよ。ずっと前から……」
「どうしてだか考えたことはあるか?」
「――もちろん、あるけど……」
ジョージはやや前かがみだった姿勢を正して、小川の向こうの海を見据えながら、
「それが寂しさっていうやつだ。今まではそれが当たり前でまったく気付かなかったが、孤独でいることに耐えきれなくなった心が、お互いを求めているんだ。俺とおまえは特別な存在だ。姿形は周りの連中と変わらないけど、きっと俺たちの中に、自分では理解できない何かが入り込んだんだ。なんだろうって考えたこともあるけど、あまり考えすぎると頭が痛くなってくる。きっと、これも俺たちの中に入り込んだものが、その正体を知られたくなくてそうしてるに決まっている」
「何かが入ったって、それってなんなの? 生き物? ジョージ、あなたの話は難しすぎて、私には分からないわ。――それに何よ、その心っていうのは?」
「カレン、おまえの質問の方がよっぽど難しいぞ。俺はおまえをいつも気に掛けている。きっとおまえもそうだろう。どんなときでもだ。それが心だ。今はこうして土手に座って話をしているだけだけど、きっとそのうち、俺たちはそれだけでは済まなくなる。そんな予感がするんだ。俺の中に入ったものは確かに日々成長を続けている。たぶん、おまえの中に入ったものも同じだろう……」
「予感……?」
この作品はノベルアップ+様の現代ファンタジー部門で、何度か日刊ランキング1位を取らせていただいたものです。
初めての横書きでしたが、思った以上に愉快な作品に仕上がったと思っています。小説というよりも「読む漫画」と表現した方が正しいような気さえします。
各キャラクターたちの個性を初めとして、読者の皆様方がこの作品を読むことによって少しでも嫌なことから遠ざかれ、楽しい時間を過ごせていただけたらと思っております。
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