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朱自清(1898-1948)は中国を代表する散文家(エッセイスト)の一人で、現代中国の国語の教科書にもその作品が掲載されている。 書籍のご紹介動画


本の概要・紹介文

朱自清(1898-1948)は中国を代表する散文家(エッセイスト)の一人で、現代中国の国語の教科書にもその作品が掲載されている。
その作品の一部を日本語に訳し、紹介する。

書籍冒頭のご紹介

朱自清散文集 多田敏宏編訳

歌声


昨晩、中国の音楽と西洋の音楽共同の歌舞大会で、管弦楽に乗せて清らかな歌が三曲歌われたが、まさに心を奪われた。

晩春の早朝、立ち込める霧雨の水滴が音もなく顔に落ち、潤沢で軽やかな感覚を引き起こした。手に吹いた愛する人の息のように、新鮮なそよ風が袖を動かした。私が立っているミョウバン石の石畳の道は、薄くクリームを塗ったみたいに、踏みしめていると愛しいほどに滑らかになる。

花園の中だ。花たちは清らかな夢を見ている。かすかな雨はひっそりと花たちのよごれを取り去り、甘くて柔らかな輝きを増す。洗い取られた浮いたあでやかさの下に、天気のいいときには花たちが深く隠していた静かな赤とひんやりとした紫、苦笑している白と緑が見える。以前は錦繍のようであったものが、今は暗みを帯びた色になっている。芳しい春の停滞を憂いているのか?芳しい春の疲労を感じているのか?

立ち込めた霧雨のためだろう、花園に濃厚な香りはない。かすかな東風が飢えているような一筋の花の香りを乗せてきた。水気を含んだ草むらの吐息と土の味も含んでいる。園の外の田んぼと沼から、植えたばかりの苗と育ち始めた麦、そして陰を作っている柳の木の清新な蒸気が吹き込んでくる。甘美ではないが、強烈に私の鼻を刺激し、愉快な倦怠を感じた。

見てごらん。それらは皆歌の中にある。私は耳を用いて、目と鼻、舌と体を用いて、聞いている。心を用いて歌っている。私はついに健康なる麻痺に受け継がれてしまった。歌の所有するところとなってしまった。それ以降は歌だけが歌い、聞いている。世界にあるのは歌声だけだ。

1921.11.3


写真1


そそくさと

燕は去っても、また来る。柳は枯れても、また青くなる。桃の花は萎れても、また咲く。しかし、教えてくれ、私たちの日々は一度去るとどうして戻ってこないのか?だれかが盗んだのか?それは誰だ?どこに隠れているのか?ひとりで逃げ去ったのか?今どこにいるのか?


写真2


私にどれだけの日々が与えられたのかわからないが、徐々に空虚になっていく。黙って数えてみると、八千日以上が私の手の中から逃げ去った。まるで針の先の水滴が大海にこぼれるように、私の日々は時間の流れの中にこぼれていく。音もなく、影もなく。涙がぽろぽろこぼれるのを禁じ得ない。去る者は追わず、来るものは拒まずだが、なぜそんなにそそくさしているのか?朝起きると、二つか三つの方向から部屋に斜めに太陽の光が差し込む。太陽にも足があり、こっそりと移動していく。私も茫然と回転する。そして、手を洗うと、日々はたらいの中から去っていく。ご飯を食べると、日々は飯茶碗の中から去っていく。黙っていると、目の前から穏やかに去っていく。そそくさと去っていくのに気づき、手を伸ばして引き留めようとすると、伸ばした手の横から去っていく。暗くなって、ベッドに横たわると、怜悧に私の体を跨ぎ、私の足元から飛び去っていく。目を開いて太陽と再会すると、一日が去ったことになる。顔を覆ってため息をつく。が、新しい日の影がため息の中できらめき始める。飛ぶように去っていく日々の中で、多くの人家が並ぶこの世界の中で、私に何ができるのか?徘徊するだけ、そそくさするだけ。八千日以上のそそくさの中で、徘徊以外に、何が残ったか?過ぎ去った日々は軽やかな煙のように、そよ風に吹き散らされ、淡い霧のように、出たばかりの太陽に溶かされる。私にどんな痕跡が残ったか?漂う蜘蛛の糸のような痕跡が残ったことがあったか?私は裸でこの世界に来て、あっという間に裸で去っていく。が、埋め合わせはできない。なぜ無駄に過ぎ去るだけなのか?

教えてくれ。私たちの日々は一度去るとどうして戻ってこないのか?

(1922.3.28)

訳者注:時間の流れの速さを繊細に描いたエッセイ。


写真3

目次
  1. 朱自清散文集 多田敏宏編訳

    1. 歌声
    2. そそくさと
    3. 秦淮河、夜の川下り
    4. 春暉での一か月
    5. 女性について
    6. 後ろ姿
    7. 月光・ハス池
    8. 白馬湖
    9. 揚州の夏の日
    10. 花を見る
    11. 南行雑記
    12. 亡き妻に捧ぐ
    13. 喫煙を語る
    14. 揚州の食
    15. イギリスの食
    16. 北平陥落の日
    17. 新中国を望む
    18. 食事を論ず
    19. 女性医師劉雲波
    20. 朱自清について(「捜狗百科」から)
    21. 訳者あとがき

著者:多田敏宏

1961年京都市に生まれる。1985年東京大学法学部卒業。中国の大学で約十年間日本語を教授。「我が父、毛沢東」、「ハイアールの企業文化」などの訳書あり。

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