AI音声解説
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「ひととき」投稿実録集
まえがき
「老いの現在地」という言葉を、私はいつの間にか使うようになっていた。
いつからかと問われても、はっきりとは答えられない。
ただ、ある日ふと、自分がどこに立っているのか分からなくなり、
それを確かめるために口にした言葉だったように思う。
老いとは、年齢の数字のことではない。
体力が落ちたとか、病気が増えたとか、そういう話でもない。
昨日まで出来ていたことが、今日は出来ない。
その理由が分からないまま、一日が過ぎていく。
そうした小さな出来事の積み重ねの中で、人は静かに立ち位置を失っていく。
新聞の「ひととき」に投稿し始めたのは、
何かを訴えたかったからではない。
むしろ逆で、
「これは自分だけの感覚なのか」
「他の人も同じように感じているのか」
それを確かめたかった。
書いたのは、立派な話ではない。
義歯のこと、禁煙の失敗、七草粥、夜中の転倒、役に立たなかった自分。
どれも人に誇るような出来事ではない。
だが、どれも紛れもなく、私の「現在地」である。
老いは終点ではない、とよく言われる。
だが、希望を語る前に、
まずは「いま、ここにいる」という事実を
そのまま置いてみる必要があるのではないか。
美化もせず、悲劇にもせず、
ただ実録として。
この本は、老いについての教訓集ではない。
励ましの本でもない。
ましてや、達観の書でもない。
新聞という公共の場に投げた短文を、
季節ごとに並べ直しただけの、実測記録である。
春は、始まりの季節と言われる。
だが老いの春は、必ずしも軽やかではない。
それでも、外は明るく、
人は今日も何かを書き、何かを食べ、
そしてまた一日を終える。
この一冊が、
誰かにとっての「老いの現在地」を確かめる
小さな地図になれば、それで十分だと思っている。
—— 現在地、更新中。
老いの現在地
著者:上里義隆(うえさと・よしたか)
1934年生まれ。九十路を迎えて創作活動に本格的に取り組む。
人工知能ChatGPTとの出会いをきっかけに、人生の集大成として「九十路AI三部作」を執筆。
『ChatGPTに魅せられた91歳の男』『ChatGPT光と影』『AI文明をAIは笑えるか』を通じ、AIと人間の関係を毒舌ユーモアを交えて描く。
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